以前、「海賊」というのはどういう人達で、どのような背景で「海賊行為」を行なっているかについて書きました。
http://atsukoba.seesaa.net/article/113146297.htmlその後、調べてみたところ「海賊は元漁民ではない」という主張をされている方もいましたので補足します。
政治学者 竹田いさみさんという方がTBSラジオに出演してインタビューで語っています。
竹田いさみさんという方は『国際テロネットワーク』という本を出していて、以下のページにその紹介があります。
http://www.yomiuri.co.jp/book/author/20060214bk01.htmラジオ番組はネットでも聞くことができます。3回に渡る特集ですが特に1回目のタイトルが刺激的です。
「海賊は元漁民にあらず〜その意外な正体」
番組紹介ページ
http://www.tbsradio.jp/st/2009/01/17_2.html実際の音声
http://podcast.tbsradio.jp/st/files/sakasa20090107.mp3大雑把に説明すると、「海賊」は内戦で対立してる氏族の中のひとつが海賊行為に出ているのであって「元漁民」ではない、という主張をされています。
著作権もありますので、ごく一部だけ紹介しましょう。
↓ここから引用
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日本のテレビや新聞では、元漁民との報道が多いと思います。しかし、これを鵜呑みにしてはいけないと思います。
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もともとソマリアでは、産業としての漁業は成立していませんでした。
まあ小さな船で一日の糧を得る程度の漁業がなされていたという程度のものなんですね。
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↑引用ここまで
「産業としての漁業」がなくても「一日の糧を得る程度の漁業」で暮らしていたのであれば、乱獲で漁場を荒らされた漁民が海賊化するというのはありうる話だと思いましたが……。
もう少し紹介しましょう。
↓ここから引用
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海賊達自身がですね、まあその外国メディアの取材に対して「外国船の乱獲で漁業ができなくなったんだあ!」「やむおえず海賊になったんだ」と発言しているんです。
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つまり自分たちの置かれた哀れな境遇をアピールして、外国メディアから同情を引き出そうと。
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↑引用ここまで
なるほど。たしかにテレビで流されている「海賊を名乗る人物へのインダビュー」は、海賊側からテレビ局にアピールしてきた可能性もあります。
海賊が活動をしている映像もテレビで流されていますが、竹田いさみさんによるとこれも「海賊」の側がPR活動のために提供したものだそうです。「海賊」に対する臨検の映像は取り締まりをしている側が撮った映像でしょうけど、「海賊」の行動にカメラがぴったりと付いて撮影している映像は、たしかに「海賊」側が提供した、あるいは「海賊」側があえて撮らせた可能性があると思います。
竹田いさみさんは、さらに「海賊」がさまざまなハイテク装備をしていることを紹介し、「ただの漁民とは思えませんね」と言っています。
軍事評論家の江畑謙介さんも、1月31日に放送されたNHK『週刊ニュース』でのインタビューで、「海賊」について以下のように話していました。
↓ここから引用
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例えばアフガニスタンやイラクでなんかで行動している、非常に組織化された重武装の集団が洋上で活動していると。
--中略--------
(「海賊」が持っている)ロケット弾の発射機も、もともとは戦車を破壊するためのもの
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↑引用ここまで
ということです。たしかに「元漁民」という言葉で、素朴な人達というようなイメージを持っていたとしたら、認識を誤る危険性はあります。
ただ、竹田さんに質問しているラジオのパーソナリティーは「元漁民……そんな簡単にできるわけないだろう」「日本のメディアは、あきらかにミスリーディングしている」などとオーバーなリアクションをしすぎだと思いました。
番組の第2回目では、氏族の有力者が作った私設海軍(沿岸警備隊)が「国際的な密輸グループに変身した」という説が語られます。
番組紹介ページ
http://www.tbsradio.jp/st/2009/01/18_4.html実際の音声
http://podcast.tbsradio.jp/st/files/sakasa20090108.mp3私設海軍(沿岸警備隊)が「海賊」に変化していく過程として、驚くべき内容が語られます。「海賊」は、民間軍事会社であるハートセキュリティ社の研修を受けたというのです。
↓ここから引用
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実は2000年前後、いまから8年前ですね、9年前にですね、イギリスの海洋安全保障の会社がありまして、民間のコンサルタント会社でハートセキュリティっていうんですが、ここと契約を結んだんですね。
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ここで契約を結んで多額の契約金を払ってですね、イギリス人の専門家を派遣してもらいます。そして高速艇の操縦とか武器の使用、ま、武器にはRK47とかRPGロケット砲とかですね、それからあと、衛星電話の使い方ですとか小型レーダーの使い方、また、犯人の逮捕術とかですね、対外広報の仕方など、まあ幅広い分野で海洋安全保障の研修プログラムを導入したと言われています。
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↑引用ここまで
ハートセキュリティ社は、イラクで勤務中に武装勢力に襲撃されて亡くなった斎藤昭彦さんが勤めていた会社です。民間軍事会社に雇われた日本人がイラクに行っていたという事実は日本で衝撃的なニュースとして伝えられました。
前述の竹田さんの説が本当かどうかはわかりません。ネットで検索すると、出てくるものはほとんどが竹田さんの説を元にして書かれているものです。
ですので、これが正しいのかどうかの検証はできませんが、興味深い話だとは思います。
「対外広報の仕方」もハートセキュリティ社から学んだということですから、「海賊」達がインタビューで「同情を引き出そうと」して「自分たちは元漁民だ」と宣伝するという説も、なるほどと思わせます。
では、実際に「海賊」達が元漁民なのかどうかですが……、おそらく元漁民なのか元私設海軍(沿岸警備隊)なのかという「どちらか」ということではないのだと思います。ソマリア沖の「海賊」と呼ばれる人達の中には、元漁民もいれば元沿岸警備隊員もいるのではないでしょうか?
そこを冷静に捉えておかないと、「元漁民」なのか「元沿岸警備隊員」なのかどっちなんだ!、という不毛な議論に陥ってしまいそうです。
以前も紹介した水島 朝穂さんのサイトで紹介されているチュービンゲン軍事化情報センターの文章でも「漁師もいれば、元沿岸警備隊員もいる」と書かれています。
http://www.asaho.com/jpn/bkno/2008/1208.htmlさらに、これだけ世界で話題になっているのですから、他国の武装戦力などがなんらかの形で関係している可能性もあるとは思います。
竹田さんはラジオで、私設海軍(沿岸警備隊)が変貌した「国際的な密輸グループ」が麻薬などを密輸しているとして、いかに「悪い組織」であるかを強調しています。
そして、ラジオのパーソナリティも「アルカイダを作ってしまったのと似たような話」「フランケンシュタインを作ってしまった」などとオーバーな表現をして、センセーショナルにしようとしています。
話としては面白くできていますが、そこまで決めつけられてしまうと本当なのかどうか疑問もわいてきます。
仮に、「海賊」が誕生した経緯が竹田さんの説の通りだとしても、300人ほどいると言われている「海賊」の中に、元は漁民として生計を立てていて現在では海賊をやっている人達がいる可能性も否定はできません。
物事にはさまざまな要素があり、組織にはさまざまなタイプの人が集まっています。
ですから、「海賊は全員、元漁民なんだから、ぜんぜん悪くないんだ〜」と言ったら、それは間違いだと思います。少なくとも犯罪行為をしているのは事実ですし。
しかし、「海賊は元漁民じゃない。極悪犯罪集団だ!」などと言い切ってしまうのも、正確とは言えないでしょうね。