明日13日にオバマ大統領が来日します。日米首脳会談では、「日米同盟」以外にも、環境関連のエネルギー技術、新型インフルエンザ対策、気候変動問題など、さまざまなテーマについての話し合いが行なわれるようです。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20091111-OYT1T00634.htm今回の日米会談で特に注意しなければならないと思ったのは、以下の点です。
↓ここから引用
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鳩山由紀夫首相とオバマ米大統領との13日の日米首脳会談で、2010年の日米安保改定50周年に向けて日米同盟を発展させるための政府間協議を開始することで合意することがわかった。
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来年11月に予定されているオバマ大統領訪日にあわせてとりまとめる方針で、「新安保宣言」として策定することも検討する。
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↑引用ここまで
http://mainichi.jp/select/world/news/20091111dde001030013000c.html来年に出されるかもしれない「新安保宣言」というものが気になります。
「新安保宣言」について考える前に、まずは、上記の報道などでも当たり前のように使われている「日米同盟」という言葉について考えてみます。
作家の森達也さんは以下のように書いています。
↓ここから引用
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「日米同盟」という言葉を、最近のニュースや新聞の紙面で、きっとあなたも何度か聞いたり読んだりしているはずだ。ならば考えてほしい。この言葉は昔からあっただろうか。
--中略--------
建前としては、日本に軍隊は存在していない。だから他国との(軍事)同盟など、論理的にはありえない。
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少なくとも1981年までは、日米同盟という言葉が公式に使われたことはない。ところがこの年に訪米した鈴木善幸首相とレーガン大統領との共同声明に、「日米両国間の同盟関係」なる言葉が突然現れた。
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実際の会談では使われていない。帰国後にこれを知った鈴木首相は、閣議で強い不満を表明して、伊東正義外相と外務次官が責任をとって辞任した。かつては「同盟関係」という言葉ですら、これほどに問題になったのだ。
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↑引用ここまで
http://diamond.jp/series/mori/10022/かつては「日米同盟」という言葉を使うこと自体が非常に問題になったわけです。
同様のことを、早稲田大学法学学術院教授、水島朝穂さんも書いています。
http://www.asaho.com/jpn/index.htmlhttp://www.asaho.com/jpn/bkno/2006/0501.html ↓ここから引用
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「同盟」とは軍事同盟のことである。「日米同盟」という物言いが、おおらかに、あっけらかんと使われるようになって久しい。
--中略--------
近年では、「日米同盟」という言葉がメディアに氾濫しているが、日本国憲法のもとで同盟が当然に認められるものではないことへの自覚があまりにも足りない。
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日本国憲法は、その国際協調主義(前文・98条)と、憲法9条の無軍備平和主義とがセットになって、実は軍事同盟を原理的に否定している、と私は考えている。
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↑引用ここまで
国際協調主義と平和主義・戦争放棄を憲法で掲げる日本では、「日米同盟」はそもそも認められないはずです。
ところが、1996年に橋本首相とクリントン大統領の間で交わされた「日米安保共同宣言」では、公式文書のなかで「日米同盟」という言葉が使われるようになりました。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/sengen.html
(画像は外務省のサイトより
http://qrl.jp/?298289)
その後、さらに「世界の中の日米同盟」という表現が使われ始めます。2003年5月に小泉首相とブッシュ大統領が会談した時に使われ、
http://qrl.jp/?3032872006年に発表された「新世紀の日米同盟」で、共同文書に初めて「世界の中の日米同盟」という表現が明記されました。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_koi/cnd_usa_06/ju_doumei.html
(画像は外務省『外交青書』より
http://www.mofa.go.jp/mofaJ/gaiko/bluebook/2006/html/index.html)「世界の中の日米同盟」という言葉が簡単に使われていますが、これも問題です。言葉だけの問題ではなく、いまや「日米同盟」は日米安保条約をも逸脱しています。
日米安保条約では「極東における国際の平和と安全のため」とされていた範囲が、1996年の「日米安保共同宣言」では「アジア太平洋地域」になっています。
そしてさらに、2005年の米軍再編の合意文書では「地域及び世界」へと拡大していたのです。
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/area/usa/hosho/2+2_05_02.html軍事評論家の江畑謙介さんは『米軍再編』の冒頭で以下のように書いています。(P10)
↓ここから引用
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本来ならば【中略】日米安全保障条約は根本から見直しを行なわなければならないはずである。
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また、日米安全保障条約に伴い、日本がどこまで米国と足並みをそろえて協力するのか、何を行なって何をしないのか、【中略】日本自身の意見として、国民のコンセンサスを得た上で明確な戦略を立てねばならないだろう。
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↑引用ここまで
日米安保条約は、1951年に締結され、激しい反対を押し切って1960年に改訂されました。(衆議院を通過したこと自体が強行によるもので無効だという主張もあるようです。)
安保条約を改定するとかつてのように激しく反対される恐れがあるので、条約を改定することなく、1996年の「日米安保共同宣言」という文書で実質的な改定をしたのですね。これは「安保再定義」と呼ばれました。2005年の米軍再編は「安保再々定義」とも呼ばれています。
ここでもう一度、「日米同盟」という言葉に戻りましょう。
国際問題研究者の新原昭治さんは『日米同盟と戦争のにおい』で、以下のように書いています。(P59)
↓ここから引用
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「日米同盟」とは、日米安保条約を土台にしながらも、安保条約からさえ逸脱した全地球的な日米共同の戦争体制の全体をいいあらわすために使われるようになった言葉です。
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↑引用ここまで
特に米軍再編に関する合意文書
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/area/usa/hosho/2+2_05_02.htmlhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/henkaku_saihen.htmlについてジャーナリストの松尾高志さんの遺稿集『同盟変革』(P66、P89)では以下の指摘がされています。
↓ここから引用
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安保条約の枠を越えた内容に変わってきているために、日米安全保障体制でなく日米同盟と言わざるを得ないのである。
--中略--------
指摘しておかなければならないことは、この合意文書がこうした周辺事態とグローバルな事態に自衛隊が軍事行動をとって共同対処することが日米安保条約のどこにも根拠がないことを、みずから認める記述をしていることである。
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それは合意文書の次の一句−−−「日米安全保障体制を中核とする日米同盟」との規定である。ここで「日米同盟」が英文では大文字のアライアンスとして最初に出てくる。
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問題は、それに続けてその「中核」とされたものが「日米安全保障体制」だが、ここで「体制」と記述している文言は、正式の英文では「arramgements」(諸取り決め)となっている。つまり、日米安保条約だけではなく、それを含めた諸取り決め(複数の文書)が「日米同盟」を構築しているという意味である。
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この諸取り決めとは、たとえば新ガイドライン、日米安保共同宣言、ACSA(日米物品役務相互提供協定)などを意味していよう。
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↑引用ここまで
つまり、安保条約を改訂することなく、いくつもの合意文書を作って実質的な安保改訂をし、しかも自衛隊が海外派兵する実態がどんどん進んでいるというわけです。
松尾高志さんの講演録には、以下の発言もあります。
http://comcom.jca.apc.org/heikenkon/2006/060428matsuo/matsuo_2.html↓ここから引用
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日本政府はぼやかしていますが、アメリカははっきりと、もはや日米同盟は日米安保条約のみによって成り立っていないという認識を持っている。本質的には日本の政府の側もそういう認識に立っている。
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ですから小泉さんもアフガニスタン戦争やイラク戦争に参戦するに当たっては、「安保体制に基づいて」とは言わないで、「日米同盟に基づいて」と言うようになっている。つまり日米同盟というふうに表現する以外にない、そういう中身の安保体制に切り替わっているということです。
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↑引用ここまで

(画像は首相官邸のサイトより、初めての日米首脳会談
http://www.kantei.go.jp/jp/hatoyama/actions/200909/24ny.html)さて、今回の日米首脳会談で合意した後始まる政府間協議について、最初の頃に紹介した毎日新聞の記事からの引用を続けます。
↓ここから引用
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政府間協議では、日米同盟を日本が「基軸」、米国が「礎石」とする立場を確認し、同盟重視の姿勢を強調。そのうえで協議の目的を「日米同盟の次の50年に向けて、幅広い協力を進め、相互関係を深化し、拡大する」ことと位置付ける。
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具体的には、96年4月の橋本龍太郎首相とクリントン米大統領による日米安保共同宣言を基礎とし、それを強化する形とする。2国間の安全保障分野だけではなく、世界経済や気候変動、核軍縮などのグローバルな課題でも、日米同盟を基礎に両国が協力して対処する方針を打ち出す。
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↑引用ここまで
日米安保条約を逸脱した事態がさらに進展してしまいそうです。
毎日新聞の社説では、今回の会談について
http://qrl.jp/?304288↓ここから引用
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日米同盟の「再定義」の取り組みを進める出発点にすべきである。
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↑引用ここまで
と書かれています。
日米間の今後の協議では、「日米地位協定」や「思いやり予算」など、日本が不当に不利益をこうむっているものが見直される可能性もありますが、それにもましてアメリカの世界戦略に合わせて「日米同盟」がさらに強化されていくことが懸念されます。
注意深く見ていく必要がありますね。