馬毛島といっても、ご存じない方も多いと思います。
鹿児島県の南、種子島のとなりにある小さな島です。

(馬毛島の位置、自衛隊鹿屋基地にも比較的近い)
この島に、アメリカ軍の空母艦載機の訓練基地を造るという計画が起きています。
発表では「自衛隊の施設」として造ることにされていますが、実質的な目的は米軍の訓練です。
その訓練とは、神奈川県の厚木(あつぎ)基地で行われていた空母(航空母艦)への離発着訓練(FCLP=Field Carrier Landing Practice)です。夜間に行われるものをNLP(Night Landing Practice)と呼びます。
空母は滑走路の長さが300メートルぐらいしかありませんので、戦闘機などの空母艦載機が空母に着艦するためには日頃からもの凄い訓練をしておく必要があるそうです。
空母が港に入っている時は、空母の甲板で訓練するわけにはいきませんので、陸上にある飛行場の滑走路を空母の滑走路に見立てて訓練をします。
滑走路に着いた瞬間にエンジンの出力を全開にして離陸するタッチ&ゴーと呼ばれる訓練を何度も繰り返します。そのため、周辺地域にはすさまじい爆音の被害をもたらします。

(民家の真上を飛ぶ厚木基地の戦闘攻撃機/神奈川県大和市)
厚木基地での爆音被害があまりにも酷すぎるので、1991年からは夜間に行われるNLPを硫黄島で行うことになりました。
しかし、厚木基地での夜間の訓練が無くなったわけではなく、いまでも昼夜を問わず行われています。
日米両政府が2005年10月29日に合意した米軍再編の文書「日米同盟:未来のための変革と再編」では、「米空母及び艦載機の長期にわたる前方展開の能力を確保するため」に、厚木基地の空母艦載機が山口県の岩国基地に移駐することになりました。
(ただし、厚木基地が無くなるわけではなく、空母艦載機の整備は引き続き厚木基地で行われ、実際の空母で行われる離発着訓練も厚木基地から近い相模湾沖で行われるだろうと言われています。)
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2011071702000013.html
岩国基地に空母艦載機を移駐するにあたって、アメリカ側は、硫黄島で行われている訓練を岩国基地から180キロ以内の場所でやらせろと要求してきました。

(岩国基地から180キロ圏内の地図)
しかし、すさまじい爆音を伴う空母艦載機の訓練を受けて入れるところは、180キロ以内には、どこもありませんでした。
そこで、鹿児島県西之表市にある馬毛島が候補として浮上しました。馬毛島は「タストン・エアポート(旧:馬毛島開発)」という会社が99%以上を所有していて、防衛省としては交渉も楽です。
しかし、無人島に近い島だからと言って、どんな開発をしても許されるものではありません。馬毛島には絶滅のおそれがある「マゲシカ」が生息し、島の周辺にはトコブシなどの巻き貝が捕れる好漁場もあるそうです。
そして、周辺地域には激しい爆音被害が予想されます。
種子島の西之表市、中種子町、南種子町、そして屋久島の屋久島町の1市3町の首長たちは、反対の姿勢です。
その一方で、防衛省による住民説明が自衛隊OBを介し開かれました。「反対派を警戒し、時間や会場を一度変更する隠密行動」でした。出席者らは推進団体を結成したそうです。
http://mainichi.jp/seibu/news/20110718sog00m040010000c.html
鹿児島県の伊藤知事は「地元の意向に沿いたい」としています。
http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/national/20110729-OYS1T00676.htm
西之表市の経済状況はというと、
↓ここから引用
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人口約1万7000人は、ピーク時の59年の半数に落ち込み、3人に1人が高齢者だ。商店街は老朽化が目立ち、島民の平均年収は200万〜300万円と言われる。
防衛省の話を聴いた元市課長の男性(63)は「これだけ疲弊すれば反対とは言えない」と語る。
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↑引用ここまで
http://mainichi.jp/seibu/news/20110718sog00m040010000c.html
経済状況が厳しい地方に迷惑施設を押しつけるというやり方は、原子力発電所と同じです。
そして、被害が及ぶのは地元だけとは限りません。
厚木基地から遠く離れた鎌倉などでも、空母艦載機の爆音被害はあるそうです。つまり、厚木基地から硫黄島に向かうルート上なので、艦載機が移動している際の爆音による被害があるのですね。
仮に岩国基地から馬毛島に空母艦載機が向かった場合、そのルート上には、厚木基地から硫黄島よりも地上が多いですから、より広い範囲で爆音の被害が発生することになります。

(厚木基地から硫黄島、岩国基地から馬毛島へのルート)
6月20日に放送されたTBS『NEWS23 X(クロス)』では、戦闘機部隊のダニエル・ケープ司令官が、馬毛島での訓練について「途中にいくつかの島や、自衛隊の基地など、飛行機になにかあった場合に緊急着陸できそうな場所があるので、うまく行くのではないかと思っています」と語っています。
つまり、戦闘機などの空母艦載機にトラブルなどが起きた場合は、岩国から馬毛島の途中に緊急着陸することを前提にしているのです。
1977年にはこんな事故も起きています。
厚木基地を飛び立った米軍機が民家に突っ込んで炎上し、わずか3歳と1歳の幼い兄弟の命を奪い、4年後には母親も治療の甲斐なく亡くなってしまいました。
事故直後に焼け跡でピースサインをする米軍関係者の写真が残っています。


(DVD『黙っていると100年先も基地の街』より)
http://kichidoko.exblog.jp/6644818/
昨年(2010年)には沖縄・普天間基地の機能や、嘉手納基地での訓練を馬毛島に移転するという案も出ていました。
今年7月2日、小川副防衛大臣は「嘉手納や普天間の負担軽減に馬毛島を使うことは一義的にはない」と地元に説明しましたが、「一義的には」と言っているのですから将来的な可能性として視野に入れているはずです。
http://mainichi.jp/seibu/seikei/news/20110703ddp041010013000c.html
基地は、一度、受け入れてしまうと、どんどん強化されます。
そして、周辺の人たちが被害を受けるだけではありません。
2008年9月に原子力空母「ジョージ・ワシントン」と交代するまで横須賀を事実上の母港にしていた空母「キティホーク」は、2003年に自衛隊から間接給油を受け、イラクへの攻撃に参加しています。
http://atsukoba.seesaa.net/article/58797668.html
http://atsukoba.seesaa.net/article/62329553.html


(横須賀からイラクへの攻撃に参加した米空母「キティホーク」とその艦載機:米軍のサイトより)
つまり、馬毛島での訓練が計画されている米空母艦載機は、日本からイラクなどの海外に行って戦争をしているのです。
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このブログでは、2007年2月に馬毛島での計画が報道されて以来、その時々の情勢に沿って、何度か馬毛島について書いています。
以下で、まとめて出てきますので、それぞれの文章のタイトルでクリックすると読むことができます。
http://atsukoba.seesaa.net/pages/user/search/?keyword=%94n%96%D1%93%87&vs=http%3A%2F%2Fatsukoba.seesaa.net%2F&fr=sb-sesa&ei=Shift_JIS
馬毛島に関する日々のニュースは、以下でまとめています。
http://togetter.com/li/167379
※2011年7月31日、空母の画像を追加、読みやすくするために文章表現を若干改訂しました。