普天間基地の移設先は「キャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域」、そして訓練の移転先として「徳之島の活用が検討される」「日本本土の自衛隊の施設・区域も活用され得る」としています。
昨年12月15日、鳩山首相が「辺野古ではない地域を模索する、できれば決めるという状況をなんとしてもつくり上げていきたい」と発言し、さまざまな「移設先」が報道されてきましたが、結局、辺野古に戻ってしまったことになります。
以下が日本語の「仮訳」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/joint_1005.html
そして「英語版正文」です。
http://www.mofa.go.jp/region/n-america/us/security/scc/joint1005.html
上記の文章はとてもわかりづらい文章です。新聞等の分析も参考にしながら私なりになんとか読み込んでわかった問題点を、「仮訳」の文章を紹介しながらいくつか指摘します。
【ほとんど自民党時代の案と同じ】
「両政府は,代替の施設の環境影響評価手続及び建設が著しい遅延がなく完了できることを確保するような方法で,代替の施設を設置し,配置し,建設する意図を確認した。」
↑
つまり基地建設が環境影響評価(アセスメント)によって遅れることがない方法でやるということです。
環境アセスをやり直さないですむ範囲ということは、自民党時代のキャンプ・シュワブ沿岸V字滑走路案の滑走路を1本にしたり、基地の位置をちっょとだけ(55メートル程度)沖合にずらしたりという程度の修正しかできません。
それでも日本政府は「(自民党時代の)現行案とは違う」と強弁したいようです。
しかも、これまでの環境影響評価(アセスメント)の調査は杜撰さも指摘されています。配備が予定されているオスプレイの騒音も検討されていません。
【アメリカ側は二本の滑走路を求めている】
日本語の「仮訳」では「滑走路」と書かれているところは、「英語版正文」では複数形の「(S)」が括弧付きで付いています。
岡田外務大臣はV字型滑走路で決着する可能性もあるとの認識を示しました。
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2010-05-29_6862/
<
【訓練を全国の自衛隊基地に拡散】
「両政府は,二国間及び単独の訓練を含め,米軍の活動の沖縄県外への移転を拡充することを決意した。」
↑
訓練の移転先として、冒頭で紹介したように「徳之島」や「本土の自衛隊の施設・区域」があげられています。政府はこれによって「沖縄の負担軽減」を印象づけようとしています。
しかし、2006年の日米合意で嘉手納基地の訓練が全国の自衛隊基地に移転しましたが、嘉手納基地には他の在日米軍基地や米本土の基地からの外来機がやってきて訓練をしたために、結果的に嘉手納基地の騒音は減っていません。
(訓練の移転については以下もご参照ください。)
http://atsukoba.seesaa.net/article/54180345.html
http://atsukoba.seesaa.net/article/144244573.html
今回の日米合意では戦闘機の訓練だけではなく、海兵隊のヘリ部隊と地上部隊との共同訓練なども移転しようとしているようです。
(画像は沖縄、高江で行われている海兵隊の訓練)
【グアムの米軍基地に「思いやり予算」】
「日本国内及びグアムにおいて整備中の米国の基地に再生可能エネルギーの技術を導入する方法を,在日米軍駐留経費負担(HNS)の一構成要素とすることを含め,検討することになる。」
↑
「在日米軍駐留経費負担」というのは、いわゆる「思いやり予算(Host Nation Support)」のことです。
「在日米軍」の経費を負担するのではなく、海外の米軍のための経費まで日本の税金で負担するというのは信じがたい話です。
この件については沖縄タイムスが社説で取り上げています。
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2010-05-29_6864/
画像は防衛省『わが国の防衛と予算』よりグアム島の空撮
【共同声明で取り上げられなかった点】
何が書かれていなかったかというのも重要です。
今回の共同声明では、沖縄県が要望していた、
「久米島・鳥島の射爆撃場の返還」や
「日米地位協定への環境関係条項新設」には触れていません。
「日米地位協定の見直し」については民主党のマニフェスト(政権公約)にも書かれているのですが、先送りにされています。
【辺野古の新基地を自衛隊も使用?】
「両政府は,二国間のより緊密な運用調整,相互運用性の改善及び地元とのより強固な関係に寄与するような米軍と自衛隊との間の施設の共同使用を拡大する機会を検討する意図を有する。」
↑
アメリカが冷戦以降始めた米軍再編に伴い、日本では在日米軍と自衛隊との合同訓練が増えています。これは米軍再編の原則の第一が「同盟国の役割強化」であるためです。
(以下もご参照ください。)
http://atsukoba.seesaa.net/article/19265503.html
2006年の日米合意では「施設の共同使用」は、キャンプ・ハンセンと嘉手納基地の二つとされていました。実際に自衛隊はキャンプ・ハンセンで市街地戦闘訓練をしています。
今回の共同声明では「施設の共同使用」がどの基地の事を示しているのかは明確にされていません。ちなみに「英語版正文」では「Shared Use of Facilities」と「施設」が複数形になっています。さまざまな基地での「共同使用」を拡大させようとしています。
そして、これは辺野古の新基地をも示している可能性があります。
実際に共同通信の記事では、
「声明には普天間代替施設を念頭に、自衛隊との共同使用の検討を盛り込んだ。」と書かれています。
http://www.47news.jp/CN/201005/CN2010052501001019.html
また、今回の共同声明が発表される前に報道された記事では以下のように書かれています。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201005/2010052300246
↓ここから引用
--------------
代替滑走路について、自衛隊との共同使用を検討する内容が合意文書に含まれ
る見通しであることが23日、分かった。政府関係者が明らかにした。両政府は
28日の発表を目指し、文書の内容をさらに詰める。
--------------
これまでの協議で日本側は、米軍基地に対する沖縄県民の強い拒否感情を和ら
げるため、代替滑走路を米海兵隊だけでなく、自衛隊と共同で使用することを提
案。米側も前向きに検討する考えを示しているという。日本側は、自衛隊が基地
の管理権を保有することも求めているが、米側は難色を示している。
--------------
↑引用ここまで
http://mainichi.jp/select/today/news/20100524k0000m010108000c.html
↓ここから引用
--------------
代替施設について、日米両政府が、自衛隊と米軍による共同使用を検討することで大筋合意していることが23日、分かった。
--中略--------
自衛隊と共同使用とすることで米軍のプレゼンスを相対的に減らし、沖縄の負担感を薄める狙いがある。さらに日本側は将来、安全保障環境が改善し、沖縄からの海兵隊撤退が可能となる事態を想定し、自衛隊管理としたい意向だ。
--------------
↑引用ここまで
将来的に自衛隊が管理するという方向についてはアメリカ側との話し合いがうまくついていないので、今回の共同声明では「辺野古」とは明確に書かずに曖昧な表現になった可能性があります。
この件については目取真俊さんがブログで、
「仮に将来、海兵隊が沖縄から撤退することがあっても、自衛隊が継続して居座ることを狙った、これまでの計画以上に悪質な内容である。」
と書いています。
http://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/4a2f5707339a6623def9946efb06358c
そして、鳩山首相は昨日夜の記者会見で
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100528/plc1005282236044-n3.htm
「どんなに時間がかかっても、日本の平和を主体的に守ることができる日本を作っていきたい」
と、唐突に自主防衛論を語っています。憲法との兼ね合いも含み要注意の発言です。
【自衛隊の役割をさらに拡大】
共同声明には、
「共有された同盟の責任のより衡平な分担」
という言葉も含まれています。これも自衛隊の強化を示しているのでしょう。
そして共同声明は最後に
「伝統的な安全保障上の脅威に取り組むとともに,新たな協力分野にも焦点を当
てる。」
という言葉でしめくくられています。
「伝統的な安全保障上の脅威」というのは昔ながらの国家間の「侵略」や「戦争」でしょう。
では、「新たな協力分野」とは、なんでしょうか?
生物・化学兵器のような「新たな脅威」のことを示しているのでしょうか?
それとも「海賊」などのように「国家」ではない相手を敵にして戦うことを示しているのでしょうか?
いずれにしても意味深な言葉で終わっている共同声明です。
今回の共同声明は、普天間「移設」の話として捉えられがちですが、その背後には海外の米軍への「思いやり予算」の提供や、自衛隊の強化など、日本にとってたいへん重要な内容が示されています。
今後も注視していく必要がありますね。
【追記】
上記の文中に鳩山首相の記者会見が掲載されているURLを付記しました。
以下は、本日(5月30日)の東京新聞一面トップの記事です。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2010053002000076.html
これによると、今回の交渉で、辺野古での新基地を米軍と自衛隊とで共同使用する案は日本側から提案されたようです。
それは「安全保障面での連携を促すとともに、基地の運営に日本が関与できる余地ができ、自衛隊が地元対応の窓口になることで、基地が受け入れられやすくなる狙い」があったとされています。
日本側は「滑走路を一本に縮小した上で、自衛隊との共同使用を米側に求め」て、アメリカ側が「滑走路二本の現行計画が最善と主張。共同使用については「受け入れる余地はあるが、自衛隊も使う分、施設を広げる必要がある」と指摘した」そうです。
結果的には、基地の面積を拡大すると反対されるうえ、環境アセスのやり直しで時間がかかるために「共同使用を拡大する機会を検討する意図を有する」という遠回しな表現になったわけですね。
(現在の環境アセスにも問題があって本来は現行案でも環境アセスをやり直さなければならないのですが。)
【5月31日 追記】
この間の鳩山政権の「迷走」をかなり詳しく検証した毎日新聞の記事によると、
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100531ddm010010140000c.html
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100531ddm010010163000c.html
「普天間代替施設の自衛隊と米軍の共同使用」は「将来的な自衛隊の管理をにらんだもので」、いわば「常時駐留なき辺野古」で、防衛省首脳によると「鳩山首相の案だった」とされています。
そして「「沖縄の自衛隊に対する複雑な感情を理解していない」と冷ややかに受け止められた」そうです。