ここでは事故を起こした「あたご」はどんな船なのかを考えてみましょう。
今回の事故はイージス艦であることが直接の原因ではありませんが、話題になっていますし、海上自衛隊のイージス護衛艦「あたご」の位置づけをあらためて考えてみるのも意義があることだと思います。
イージス艦というのはアメリカで開発されたイージス・システムを搭載した艦艇のことです。
江畑謙介さんの『日本の防衛戦略』によると、フェイズド・アレイ・レーダー(SPY-1)によって空を警戒し、複数の目標に対してミサイルを発射し目標に向かって誘導できる機能を持っているとされています。
この画像の八角形の部分が「あたご」のフェイズド・アレイ・レーダーです。ただしこのレーダーは今回の事故とは、ほぼ関係がありません。
http://atsukoba.seesaa.net/article/84962867.html
イージス艦をアメリカ以外で導入したのは日本が最初です。
海上自衛隊のイージス護衛艦は、もともとは米ソ冷戦が続いていた1980年代にソ連軍の爆撃機による空からの攻撃に対処するために導入が決まったそうです。
しかし、冷戦が崩壊してもイージス艦は造られ続けました。前述の本では、
↓ここから引用
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本来なら、民主主義の国であるなら、90年代の初め、遅くとも92年の段階で、本当にイージス艦の建造を続ける必要があるのかについて、立法府で議論があってしかるべきであったろう。
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↑引用ここまで
としています。
その後、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)がミサイルを持つようになり、イージス艦は結果的にそれに対抗するのに役にたつということになりました。
つまり、イージス・システムを改造したイージスBMDによって相手が撃ってきたミサイルを探知し、こちらから撃つミサイルで撃ち落とすという海上でのMD(ミサイル・ディフェンス)計画になったのですね。
そして4隻造られた「こんごう型」に続いて、それよりもひとまわり大きな「あたご型」が造られているのです。現在では「あたご」に続く6番目のイージス護衛艦「あしがら」もほぼできあがっています。
(この記事を書いた時には「7番目のイージス護衛艦も建造が予定されている」と書きましたが、私の勘違いだったようですので訂正します。)
(今回事故を起こした「あたご」)
MD(ミサイル・ディフェンス)計画に関しては賛否両論ありますが、仮に日本にとってイージスBMDとMD用ミサイルが不可欠であると仮定しても、あまりにも金額が高いイージス艦は必要ないのではないかという説もあります。
ちなみに「あたご」の建造費は1475億円とされています。(1400億円、1453億円という記述もあります。)
前述の本で江畑謙介さんは以下のように書いています。
↓ここから引用
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イージス・システムとSM−3迎撃ミサイルが、どうして【中略】「駆逐艦型」の船に載せなければならないのかという疑問が生じる。
--中略--------
専守防衛で、海外で「積極的な」、あるいは攻撃的な軍事力の行使はしないとしている日本が、イージス・システムを【中略】巡洋艦や駆逐艦型の船体に搭載する必要性はない。
それよりも、例えば、コンテナ船のような船にイージス・システムとSM−3を搭載し、良い居住性を持たせて日本海に配置した方が、よほど日本に対する弾道ミサイル防衛という目的には効果的ではないだろうか。
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↑引用ここまで
江畑さんのこの説については異論がある方もいるでしょうが、こういう視点を持つということも大切です。
(建造されていた当時の「あたご」 2005年撮影)
「あたご」は三菱重工の長崎造船所で造られました。建造された場所は、かつての戦艦「武蔵」と同じ第二船台(BERTH No.2)でした。
「あたご」の名前は、当初、海上自衛隊の内部で募集されて候補名を絞り、「旧海軍を代表する名前」が候補にあがったのですが、撤回されたそうです。
候補にあがっていた名前は、旧海軍の「長門(ながと)」「大和(やまと)」だったなどの説があります。
海上自衛隊のイージス艦には、すべて大日本帝國海軍の巡洋艦の名前が付けられています。
現在のところ、最新鋭のイージス艦の中でももっとも新しい艦艇ですから、海上自衛隊の中でも花形といえる船でしょう。
ただ、「あたご」には現在のところ、ミサイル防衛用のSM−3は搭載していません。
昨年12月、ハワイでSM−3によるミサイル迎撃の実験に成功したとされているのは、海上自衛隊のイージス艦の中でも一番最初に造られた「こんごう」です。
(昨年12月、「こんごう」によるミサイル発射)
「あたご」は、去年3月に就役し、11月からハワイで対空ミサイルSM−2の発射試験をしていたとされています。
実践配備では「こんごう」に先を越される形とはなりましたが、ミサイルの発射実験にも無事成功した「あたご」も、今後イージスBMDへの改造が予定されています。
防衛省・自衛隊は昨年、不祥事などの逆風が続いていましたが、守屋前事務次官の問題も一段落し、インド洋での給油活動も再開することになり、ようやく落ち着いてきた時に起きたのが今回の事故です。
防衛省の発表によると「あたご」が現場海域を通過するのは初めてだったそうです。
http://www.kanaloco.jp/localnews/entry/entryxiiifeb0802529/
やはり、乗組員に油断があったのだろうということは想像ができます。
石破大臣は24日の『サンデープロジェクト』で、
↓ここから引用
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国を守る「誇り」が「おごり」に通じているとしたら、それはとんでもないこと
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↑引用ここまで
と話していました。
そこは、もう少し捜査が進み、たとえば民間の大型艦や他の自衛艦が現場海域を通る時はどうだったのか、「あたご」の乗組員の意識がどうだったのかなどの情報も出てこなければわかりません。
昨日(27日)、ようやく「あたご」の艦長が公式の場に現れ謝罪しました。記者会見では「あの海域で漁船が多い状況であったということを理解していないのは問題だった」と語ったそうです。
http://www.asahi.com/national/update/0228/TKY200802270395.html
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080228-OYT1T00115.htm
防衛省が虚偽の説明をしていたという問題も出てきて、石破防衛大臣は窮地に追い込まれています。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20080219-1263180/fe_080228_01.htm?from=yoltop
事件については海上保安庁の調査が一段落するまでは、実情がなかなかわかりません。
(この記事を書いた時には「7番目のイージス護衛艦も建造が予定されている」と書きましたが、私の勘違いだったようです。失礼しました。ご指摘くださった方に感謝します。)
ラベル:自衛隊





いつもAMLの投稿を読ませて頂いております。
大変勉強になります。
有り難うございます。
できるだけ間違いのない情報を掲載していきたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
しかも、中国が航空戦力や海上戦力を強化してきている情勢ですから、数を増やさずに十分な防御体制をつくるには、質の向上は不可避ということになります。
もちろん、外交交渉や草の根交流・友好関係の構築や経済関係の発展による紛争防止は、言うまでもなく大切なことですが、これを最優先かつ最重要項目として推進していっても、自衛隊が「必要ない」とは言い切れないのが現状です。
こういう中にあってイージス艦は、「少ない艦船で、十分な対空防御を行う」という点で必要となってきます。
よく誤解されますが、そもそもミサイル防衛というのは、複数の仕組みを組み合わせて、その総合力で対応する仕組みです。
人工衛星でミサイル発射発見することも含めて、人工衛星とイージス艦、そしてAWACSのレーダーが連携して、ミサイルの軌道をできるだけ正確に把握し、海上からSM−3、地上からPAC3を発射して、その総合力で「ミサイルを迎撃する」という仕組みです。
従って、単体での命中率をもって「精度が低い」と評価すべき仕組みではない、ということです。
中には「MDによって、ミサイル攻撃を受ける怖れをなくして、先制攻撃を行うことを目論んでいる」という人もいます。
そのことを完全に否定することは、さすがに私もできませんが、MDの仕組みを見れば一目瞭然ですが、かなり複数の装備を連携して使用することで、初めて機能する仕組みであり、従ってコストがあまりにもかかります。
人間性を排して冷徹な視点で言えば、『防衛』は、市民生活や都市機能、経済といった「破壊されたら、被害も復旧もとんでもなく大きいもの」という観点での効果測定となりますから、数千億円のコストがかかっても、費用対効果という点においては「お得」となります。ところが『攻撃』については、「担保の設定にカネがかかりすぎる」わけですし、第一、初期の攻撃で大々的に攻撃を加えてしまえば、MDの出番は極小化しますから、費用対効果でいえば「下手すれば無駄に終わる」ということになります。
従って、「MDによって、ミサイル攻撃を受ける怖れを排除して、安心して先制攻撃ができる」というのは、その意見を完全に否定することはできないまでも、「理論的には、ちょっと苦しいかな」ということになります。
もっとも、軍備は純粋に防衛という観点であっても、非常にカネがかかる話ですし、確かに何兆円もの予算を福祉や教育分野に回せば、国民負担を減らすことができるのは言うまでもないことですから、軍縮に向かって動くことこそが重要である、ということを否定する気は、私もまったくありません。
の有用性や是非は全く別に議論するべき
だと思っています。
貴サイトではこの記事しか見ていないのですが、事件発生より間近とはいえ、漁船の事情、小さい船がどういう動きをするだろうか、というハナシが全く出ていないのは自己分析なのか単にイージスについて調べただけなのかよくわからない記事になってますね